新型コロナウイルス感染症への対応から休館となっている西陣織史料室の「西陣伊達家の織物」展。
再開館までまだしばらく時間がかかりますので、5世伊達弥助が手がけた珍しい貴重な蓮の糸による観音像を紹介します。
藕糸織観音像・藕糸三幅対掛軸 (ぐうしおりかんのんぞう)
4世伊達弥助がウィーン万博に派遣された際、派遣団の総裁が大隈重信だったことが縁で、4世没後、5世弥助は、大隈重信の母 三井子から自身が紡いだ藕糸と呼ばれる蓮の糸で42体の観音像の製織を依頼されました。弥助は扱いの難しい糸に苦心と工夫を重ね、翌明治11年にそれを完成させました。三井子は織り上がった蓮弁の上の美しい悲母観音に感激し、織物を漆塗りの厨子に納め、両扉の裏面に金泥で御製を印し、関東の33の有名寺院に寄納したほか、この逸品を皇后陛下にも献上しています。
極めて細い糸の蓮の糸を紡ぐのは時間と労力のかかる仕事で、蓮糸を使用した織物の存在は数少なく、大変珍しい貴重なものです。託された糸も多量ではなく、蓮糸が用いられているところは文様が施されている絵緯の部分のみとなっています。
三幅の製織は、明治10年となっていますが、観音像完成を記念し、その後に織られたものではないかと推察されています。観音像は、厨子に納められものより掛軸の方が2割程度大きく、下部には波が織られています。掛軸の文様部分にも蓮糸が使用されています。控え目な色使いのなかに清らかな品格が伝わってきます。
展示の蓮糸は、5世弥助が観音像を織る際に用いた残糸です。白と、濃淡の紅色、黒色、鼠色、青鼠色に染められたものです。
西陣織会館再開館後にはぜひ西陣織史料室にお越しいただき、ご高覧願えれば幸甚です。(入場無料)
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