第9回は、西陣金襴で人形裂地の製造・販売などを手掛ける㈱もりさんさんにお話を伺いました。
第9回は、西陣金襴で人形裂地の製造・販売などを手掛ける㈱もりさんさんにお話を伺いました。
本日はよろしくお願いします。西陣の中でも歴史の古い金襴は人形・表装・宗教裂地と用途が広いと伺っていますが、もりさんは昔から人形裂地を織っていらっしゃったのでしょうか。
〈森さん〉 最初は宗教金襴だったと聞いています。初代三左衛門の実家の家業は大工でした。その頃、機直しを副業として行っていた縁により、祖父の初代三左衛門は小学校卒業と同時に織屋へ丁稚に行くことになり、のちに独立したと聞いています。また、人形の生地の製造や人形自体の販売を始めたのは父の代からです。人形の生地としては交織が中心でした。
ホームページにも、シルクだけでなくポリエステルでの製造に対応している旨が書かれています。軒先にも生地が展示してありますが、化学繊維だと色褪せにくいのでしょうか。
〈森さん〉 色褪せのしにくさでは、やはりポリエステルに軍配が上がります。機能性という意味ではシルクにこだわる必要はないと思っています。もちろんシルクでも織っておりますが、より丈夫で機能性の高いポリエステルの強みを活用するのも悪くないでしょう。弊社ではサスティナブルな糸を使っておりますので、ポリエステルでも昔のように安くはありません。それでもシルクの方が価格は高くなりますし、最近は化学繊維の製造技術が発達していますから、絹との違いも昔ほどはなくなってきています。
人形の製造・販売以外にも和小物のOEM生産などお客様の要望に幅広く対応しているようですね。
〈森さん〉 近年は国内だけでなく、海外のお客様もいらっしゃるようになりました。桜などの和柄は、どちらのお客様にも好まれているように感じています。とはいえ、お客様の要望や用途に合わせて、新しいデザインの開発も続けています。創業103年ということで、人形裂地などを織ってきた歴史がありますから、意匠にも人形の生地を応用し、開発・販売につなげています。こだわりは残しつつも、お客様に合わせていく方針です。
京人形といえばひな人形・五月人形ですが、時代とともに変化があるのでしょうか。
〈森さん〉 今は五月人形の時期が終わったところなので、五月人形の話をしますが、昔は大型のものが売れていました。近年は可愛いものが売れるようになっています。生地の製造元としては、小型化が進むにつれ、必要な生地が少なくなってきているところが気になります。一方、顔がついているものは、一般的な五月人形よりも可愛いので人気があります。顔つきの人形は金襴の生地が多く使われていますから、当社の本業が生かされているように思います。雛人形は私自身が京人形司として制作しますので、お雛さんの衣裳は基本的にシルクでしか作りません。これは日常使いの物ではなく、年月と共に味が出てきますのでね。いまだに全国の人形屋さんはポリエステルの衣裳を身につけたものが多いと思います。私はシルクとポリエステルの使い分けは用途に応じて行うべきだと強く思っています。
人形については、主に卸売りが中心ですか。
〈森さん〉 卸売りはもちろんですが、消費者への直売も行っています。人形以外では、お土産・小物類の卸売に加え、このたび祇園に場所を設けて、西陣織の小物を扱うアンテナショップをopenしました。「現代の生活の中に西陣織金襴がもっと身近な織物であるように」をテーマに、日本人・外国人ともにターゲットとして販売しています。
祇園といえば京都随一の歓楽街・観光地ですが、店舗では他社の製品も扱っているのですか。
〈森さん〉 最初は他の会社のものも含め、雑多に扱おうとも思っていましたが、「せっかくの自分の店なのだから…」という提言もあり、弊社の裂で作った商品のみを販売しています。西陣織を使ったものを販売の軸におき、店舗から商品を発信していきたいと考えています。実店舗だけでなく、今後はネットやSNSも活用してブランディングしていくつもりです。
小巾織物である帯・きもののメーカーが多い西陣では、多用途に使える広巾織物の必要性が叫ばれています。その中で、もりさんは服地や壁紙など、大きく生地を活用されています。
〈森さん〉 重要なのは生地の幅ではなく、需要があるかどうかだと思っています。帯やきものと比較すると、金襴は比較的幅の広い織物なので、そのまま使っていただくケースが多いです。とはいえ、巾が狭くても魅力のある裂ならば引き合いは必ずあると考えています。
オーダーメードで柄を起こすことも多いようですが、どのような柄が人気ですか。
〈森さん〉 既存柄の活用が人気です。伝統的な七宝や亀甲の文様を使いつつ、ポイントで改変して、独自のものにしたものが多いように思います。雛人形屋さんが多く来ていらした時代は、同じ柄を複数のところに購入して頂くケースも多かったのですが、最近は別誂えにしてほしいという要望が多いです。画像データを紋データに移す職人もおりますので、データさえいただければ織ることができます。お客様の要望にフレキシブルに対応できるのは、問屋ではなくメーカーの強みだと思います。
紋データを移す職人の話がありましたが、逆に自社で完結しない部分もありますか。
〈森さん〉 どうしてもできない部分はあります。現状、整経や糸染めといった基本の部分を外注していますが、後々は一からできる体制を整えたいと思っています。人の話でいえば、デザインについては、若い人を取り入れ、新しいデザインの創作に取り組んでいます。また、織職人やデザイン担当が売り場で接客するシステムを確立しており、販売や織の知識を活かしてお客様に最適な提案ができるようにしています。こうした自由な提案や工房・店舗への勤務を歓迎しています。物を買う人は女性が多いことから、最近の商品開発は女性スタッフに任せています。
先ほどお話のあった祇園の店舗以外にも、小売店をいくつか持っていらっしゃるようですが。
〈森さん〉 商売として、お客様から知恵をもらうのが本道だと思います。ですから、お客様の近くで商売した方がより需要を捉えられますし、道の駅の野菜のように誰が制作したか公開することが信頼につながると考えています。小売店としては名古屋地区に3店舗、京都に2店舗、アンテナショップから脱却した店舗も含め計5店舗展開しています。西陣織のブランドも活用しつつ、自社のブランド力を高め、商品の信頼性を上げていくつもりです。
今後の方向性として、やりたいことはありますか。
〈森さん〉 今考えているのは体験工房です。自社の生地を使って和雑貨などを作るワークショップを通して、体験のニーズに応えていこうと思っています。近々行われるファミリーセールにも小物を出品しますが、もりさんとしては、売り上げを伸ばせる方向性であれば外部の催事にも積極的に出展していくつもりです。商品開発にも引き続き力を入れていきます。祇園の店舗をアンテナショップとして活用し、収集した情報をもとに魅力的な商品を開発し、より活発な活動ができたらと思います。西陣織が末永く存続できるように、また次世代の人たちが継ぎたがる魅力的なもりさんにすることが最終的な目標です。