第10回は、ネクタイ生地の製造・販売を行っているタイヨウネクタイ㈱さんの社長、松田太蔵さんと、同取締役の松田梓さんにお話を伺いました。
──本日はよろしくお願いします。タイヨウネクタイさんは、現在では西陣でも少なくなったネクタイ専業の織屋として、先日のファミリーセールにも出店していらっしゃいました。
〈松田太蔵さん〉近年のクールビズの流れを受けて、ネクタイ業界も打撃を受けています。かつては80軒ほどあったと記憶していますが、現在ではかなり少なくなりました。
弊社は、帯地や裏地・傘地の織手をしていた初代の青木竹次郎が明治40年に創業した「青木機業」がもとで、現在で3代目です。西陣でネクタイを織り始めたころは、プリント柄の安いネクタイが売れる時代だったと聞いていますが、先代が開発した玉園織、通称たま織がヒットし、西陣製ネクタイが売れるようになりました。たま織は立体的な表現が特徴のネクタイ地で、当時は御召緯を使用していました。たま織の登場で、西陣ネクタイ業界全体としても随分助かったのではないかと思います。
──最初は帯も織られていたのですね。いつごろネクタイ専業に転換されたのでしょうか。
〈松田太蔵さん〉先代のころにはやめていたと思います。昭和20年代には、すでに広幅生地を織っていました。
──西陣織大会でも、たま織のような表現が見られます。
〈松田太蔵さん〉手元の登録証によると、商標をとったのが昭和13年のようです。そのあとで西陣各社が参考にし、一世を風靡したと聞いています。
独占権はあったと思いますが、先代は黙認の方針で、商標の更新も行っていませんでした。結果的にたま織の流行で潮目が変わり、西陣ネクタイ業界が繁盛したわけですから、周りのためになる判断だったと思います。
最初は御召緯でしたが、次にソルブロンという水溶性の糸を、現在はナイロンを使っています。ソルブロンは水で縮む性質を持ち、工場で加工するまではよいのですが、雨に濡れたときにさらに縮んでしまいます。それで大損したこともありました(笑)
現在のナイロンは素材として縮む比率が決まっていますので、そのような欠点はなくなりました。
──タイヨウネクタイさんといえば、ファミリーセールで猫首輪を出していらっしゃるなど、新商品の開発にも力を入れていらっしゃる印象があります。
(松田梓さん)猫首輪を作ったのにはいくつか理由が挙げられます。まず、西陣は伝統的に紋織りの産地だということです。その紋織りの技術を生かしつつ、お客さんに使ってもらえるものは何かという視点と、生地を使ったものは世の中にあふれている中で、独自性のあるものは何か、自分が好きでやり続けられるものは何かを考えて、猫首輪を開発しました。
今は子ども用や犬用の蝶ネクタイがほしいなどという声もいただいています。確かに子供がペットとおそろいのネクタイをつけていたら、可愛いでしょう。
──昨年のミラノウニカ、今年のニューヨークでの展示会のどちらにも出展されますが、普段との違いは感じますか。
〈松田梓さん〉新商品の開発と新市場の開拓はそれぞれ別の力が必要と感じています。新市場の開拓では生地の販売が基本です。
西陣製品は紋織で派手なので、国内の一般的な服地には導入されづらい傾向があります。毎年、国内の展示会に出展していますが、アパレル関係の方が中心のため集客が伸び悩んでいる面があります。昨年のミラノでは多くの方に来ていただけて驚きました。新しいものを求めている人は、日本より海外のほうが多いように感じます。
──海外の展示会への出展で、なにか収穫はありましたか。
ミラノには服地として出しましたが、アクセサリーなどの小物、インテリアなどとして使ってもよいのではないかと提案を受けました。いらっしゃった方には商社も多かったので、使う側の意見も聞けたのがよかったと思います。
西陣の生地は癖が強いので、どう使うか迷いながら作っているところがあります。お客さんに合わせつつ、最適な使い方を提案していきながら、今はない新しい使い方を開拓していく必要があります。ネクタイに限らず、似合うのが一番大切な視点だと考えています。
さまざまなところで、「こういうことをやったらよいと思う」といった提案をいただくことは多いですが、そこから具体的な話につながる人は少ないです。こういった実際の行動に移せる人と、どれだけご縁がうまれるかが大事なように思います。
──西陣のネクタイ生地は、どのようなところにご活用いただいているのでしょうか。
〈松田梓さん〉ネクタイのブランドなど、そのままネクタイとして使うところに加え、服地や小物も最近は増えています。弊社の卸先としては、独自で商品を作っているようなところが多いです。新規取引先の中にはSNS経由で取引が生まれたところもあります。
私の仕事は企画・デザイン・営業で、ゼロスタートで始めることも多いです。広幅織機の生産力がありますので、他社が高齢化等で廃業し、同じものを作ってほしいというお話をいただくこともあります。織機の調整が違いますから難しいですが、当社でやるとこうなります、といったようにご提案させていただき、近いものを作るようにしています。
──組合の新市場開拓委員会で、新たにパンフレットを作っていらっしゃいました。
〈松田梓さん〉多種多様な紋織技術や長い歴史背景など、西陣の生地の特長を知っていただきつつ、和と洋の融合や伝統と革新を併せ持つ、新しい西陣織の価値や可能性を伝えられるような新市場開拓委員会の事業をまとめたパンフレットを目指しました。こうしたパンフレット作りも、専門外のところはプロに頼りつつ、我々しかわからないことを伝え形にしてもらう、プロ同士で共に持つ技術を合わせカタチにしていくのがものづくりのおもしろさだと思います。
本事業を通じて何かが生まれ、また新しい流れができるよう、さまざまなアプローチ方法に挑戦していきたいと考えています。
──会社として、今後どのようにしていきたいと考えていますか。
〈松田梓さん〉第一には人材育成です。新しい人を入れて、伸ばしていくつもりです。一方で、条件ややりがいといった面もちゃんとしていないと、若い人は入ってきませんから、そうした制度面を整える必要もあります。小さい会社なのでいろんなことができないといけませんが、その分、できると楽しいと思います。
現在の事業は、大きな目で見ると、既存のもののリメイクをしている状態だととらえています。過去やってきたものの傾向を見て、自分の会社の強みとし、テキスタイルを制作する会社として確立していきたいと考えています。