
第12回は、きものや帯などを製造・販売する「㈱西陣輝洸」の社長、毛利泰巳(もうり・やすみ)さんにお話を伺いました。
──本日はよろしくお願いします。西陣輝洸さんといえば、「ゆき子コレクション」や「安治郎」の名前で多くの作品を発表されていますが、いつごろから取り組んでいらっしゃったのでしょうか。
(毛利さん)「ゆき子コレクション」が今年で作品発表40周年ですので、そこからです。もともと消費者との接点が多かったわけではなく、普通の織屋でした。
母のゆき子は、現在も西陣和装学院で学院長をしています。母が最初に和装学院に入ったのも、西陣の織屋に嫁いできたことで、きものの事を知っておいた方がいいとの考えからだったと聞いています。やがて和装学院で先生になり、教えていくにつれて、女性の着る方の立場で作る「ゆき子コレクション」を発表することになりました。
「ゆき子コレクション」が発表されたのは高度成長期で、きものが普段着からフォーマル着へ変化した時代でした。豪華絢爛なきもの、いわゆるガチガチなフォーマルから、すっきりとした「ややフォーマル」な作品を目指し、「はんなり、優しく」をコンセプトとしたのが「ゆき子コレクション」です。

──「ゆき子コレクション」のほかに「安治郎」というブランドも販売しておられますが、こちらはまた違ったコンセプトなのでしょうか。
(毛利さん)高度成長期から時代が進み、今はフォーマルからカジュアルへ戻ってきている状況です。「安治郎」はコンセプトとして「伝統に学び、現代に生きる」と題打っていて、ホームページに記載のある”Simple, Noble & Cool”の通り、すっきりしていて、品があって、格好いい作品群にしています。

──先日の西陣織大会で、京都府知事賞・西陣織物産地問屋協同組合理事長賞の二つを受賞されましたが、作品作りのポイント等はございますか。
(毛利さん)今らしいデザインの柄を出品したことが挙げられるでしょうか。「安治郎」のコンセプトは「伝統に学び、現代に生きる」ですが、京都府知事賞を受賞した水色の御召も、角度によって見え方の変わる、モダンなデザインになっています。
もちろん古典柄の作品も作ってはいますが、こうした一からのデザインで勝負したい思いはあります。
「安治郎」の名前は、もともと祖父の代まで代々継がれていた名前で、それを復刻した形です。カジュアル路線のブランドを立ち上げる際に、晴明神社さんとも相談しまして、この名前に決めました。西陣には会社名をブランド名とするところもありますが、当社は独自のブランドを作る目的もあり、新しく名前を付けました。


──「安治郎」が名跡由来とは知りませんでした。昔からその名前で事業をされていたのでしょうか。
(毛利さん)他界した父は「安治郎」という名前を継いでいないので、一度途絶えた形にはなります。事業自体は昔から途絶えず続いていて、約40年前に株式会社化しました。

──毛利さんは、最初からこの業界にいらっしゃったのですか。
(毛利さん)ネクタイの会社に勤めてから家業に入りました。異業種を知れたのはプラスでした。
今のネクタイは自分で買って締めるものと思いますが、30数年前はもっぱらギフト商品で、女性が男性に贈るものでした。呉服もお客さんは圧倒的に女性が多いですから、女性への接客という点では似た点があります。
──西陣織大会では帯よりもきものが多く入賞されているようですが、きものに力を入れていらっしゃるのでしょうか。
(毛利さん)和装の中では、帯もきものも両方作っていて、どちらに力を入れているということもありません。当社は催事に自ら出向き、お客様の声を作品にフィードバックして、実際のニーズに合わせて、織も染も柔軟に取り入れた作品づくりをしています。一点一点ブランドとして、大事にものを作って販売する姿勢で臨んでいます。

──絹のきものや帯以外では、どのようなものを販売していらっしゃいますか。
(毛利さん)あくまでメインは絹で、和装が軸ですが、今はきもの以外、合繊のきものや羽織、帯を染めてネットで販売したり、Tシャツや草履を売るなど、他の事も少しずつ手掛けています。呉服のような大きな柱にはならないまでも、小さい柱にはなってほしいですね。


──今回の西陣織大会でも、小物コーナーにいくつか商品を出品していらっしゃいました。こうした小物は、他で展示する機会があるのでしょうか。
(毛利さん)来年の万博の京都ブースに出展する方向で調整しています。「産業」をテーマにした展示の3週目で、「未来を織りなす」をコンセプトに置いた作品を出品する予定です。きものや帯ではなく、アートファブリック(インテリア用織物)にする方向で進めていますので、ご注目ください。
──そのほか、帯やきものも含めた新作を見られる機会はあるのでしょうか。
(毛利さん) 当社では毎年4月に「新作発表会」を行っており、現在はそれに向けたものづくりをしています。
当社の中では大きなイベントで、外の会場を借りて、問屋さんや呉服屋さんといったお取引先を中心に、ゆき子ファンや安治郎ファンをお呼びしています。今年も4月11日から14日に、妙蓮寺で新作発表会を行います。
──今後、どのように進んでいきたいとお考えですか。
(毛利さん)基本的には和装の世界で勝負はしていきたいと考えています。特に呉服専門店、きもの教室を中心に発信していきます。フォーマルからカジュアルに嗜好が変化していっている時代を踏まえて、お客様の声も聞きつつ、対応していきたいと思います。
