第13回は、㈱織匠小玉の織師、小玉ひとみさんにお話を伺いました。小玉ひとみさんは、今年度中に社長に就任される予定です。
──本日はよろしくお願いします。㈱織匠小玉さんは、綴専門の織屋として有名ですが、どのような沿革かをお聞かせ願えますか。
〈小玉さん〉母の紫泉が西陣で修行し、その後独立、個人として組合に加盟して、令和元年に株式会社化しました。母は2022年まで組合の理事をしていました。私は娘で、母のもとで修行している状態です。今年で15年目になります。
学校の教材や雑誌など、様々なメディアに取り上げていただいています。先日は、全国の小学校に置かれる伝統工芸の本で、代表として取り上げていただきました。

──爪掻本つづれは西陣の代表的な技法ですが、どのようなものを織っていらっしゃるのですか。
〈小玉さん〉昔から主なのは帯です。つづれ帯は一重太鼓でも第一礼装まで使えるほど、格式の高い帯とされていますね。そのほか織額、小物、バッグ、名刺入れといったものを制作しています。最近では袈裟など、お寺関係の注文もいただきました。
つづれの特徴は、丈夫で軽く、帯にしてもズレにくく、シワになりにくいことです。組織自体が丈夫なので、使用の際に裏地が不要で、そのまま使用できるのも特徴です。
──美術性と実用性を兼ね備えているのですね。なぜそのように丈夫なのでしょうか?
〈小玉さん〉つづれの経糸は、一般の織物と比較して非常に太いのが特徴です。それが丈夫さの秘密でもあります。
太さとしては21中(なか)の18×2、つまり一般的な太さである21中の糸を18本撚り合わせ、そこから同じ糸を用意してさらに撚り合わせて作ります。つまり、非常に堅牢度の高い糸がつづれには使用されているのです。

──組合で販売している「爪掻本つづれ帯」のパンフレットには、「古代エジプト、古代中国、南米のプレ・インカなど古代文明の遺跡から、つづれ織は発見されています」とあります。つづれの歴史の古さがうかがえます。
〈小玉さん〉その通りです。つづれ織の歴史は古く、古代エジプトをはじめとして世界中で見られます。日本では、遅くとも奈良時代には伝わっていたようですが、西陣の直系としては江戸時代からのようです。
織機の構造としては非常に単純だからでしょうが、その分、織手の技術が必要とされます。
つづれという技法は、緯糸を入れる際に斜めに入れ、打ち込む際にダブつかせ、緯糸が隠れるように組織します。細かい柄については爪で、地の部分については筬で打ち込みます。角度や力加減で地の綺麗さが変わってしまいますから、無地でもミスなく織りきるのは難しいものです。そのため、熟練に時間がかかるのが特徴です。


──祇園祭の山鉾にも、懸装品にゴブラン織のタペストリーを使用しているものがありますね。ゴブラン織とつづれ織りには、何か違いがあるのでしょうか。
〈小玉さん〉基本的には全く同じ技法ですが、爪掻本つづれという技法があるのは、西陣だけだと聞いています。特に西陣のつづれは規定が厳しく、一寸の中に40~60本の糸を入れるなど、細かい規定があります。織機についても、90%以上が木製といった規定があります。

──小玉紫泉氏は、以前は西陣織工業組合の理事を歴任されていたりと、業界の発展に貢献されてきました。賞も多く受賞されていますが、代表作を挙げるとすると、何になるのでしょうか。
〈小玉さん〉母の紫泉は、よそにない独自の織り方、窓の表現で「現代の名工」に選ばれたと聞いています。窓の表現は、デザインに応用が利き、表絵と裏絵の二枚を活用した立体的な表現が可能な点が革命的だったと聞いています。
──作品として心掛けていることなどはありますか。
〈小玉さん〉手織りでしかできない表現を心掛けています。例としては、経糸の奥が見える窓の表現が挙げられます。他にも、リボンを挟む、三つ編みした糸を入れるようなこともあります。テーマとしては、「着て楽しい・見て楽しい」ものを作るようにしています。
図案の類はほぼ自前ですが、手織りのつづれは紋紙が不要なことが関係しています。お客さんと一緒に図案を考え、それをそのまま作品に落とし込むこともできるのが、つづれの強みの一つでしょう。実際、これまでも呉服屋さんのお客様からご注文を受け、納めたこともあります。

──御社の社長は現役でいらっしゃいますが、これまで何人ほどのお弟子さんを育てて来られたのでしょうか。
〈小玉さん〉昔から綴一筋で、弟子は10人以上育ててきたようです。もちろん、中には無地しか織らない人、柄も織る人、さまざまです。
現在は全部で5人の職人が工房にいます。つづれの職人は女性が多いですが、弊社も全員が女性です。
──今後の展開について、何か考えていることはございますか。
〈小玉さん〉今後は帯だけでなくて、小物にも力を入れていこうと思います。
大量消費の時代は終わったと感じていますので、時代のニーズに合わせて、長く使っていただける、心が豊かになるような商品を作るつもりです。
安いものを買い替えるのではなく、代々受け継いでもらえるもの、物質的な豊かさ以上のものを追求する、そういうお手伝いをしていこうと考えています。
一点ものだからできる、「こういうものが欲しい」といったニーズに応えていきます。
